体を休めてリフレッシュするための「眠り」。なのに毎朝、なんで腰がこんなに辛いのか。その原因は、血行の滞りや内臓への負担。そして、寝ている姿勢と、本来は眠りをサポートするはずの寝具にもありました。
■朝は体の循環機能が目覚めていない
朝は1日のうちで一番血行が悪くなる時間帯です。
血行が悪くなると筋肉が硬くなります。硬くなった筋肉を無理に動かそうとすることで、血管や神経が圧迫され腰など体の節々に痛みが走ります。
□人の体には体液が循環している
人の体の中では血液やリンパ液といった体液が循環しています。体液は体の隅々にまで張り巡らされた血管やリンパ管の中を通って、全身の各部分をグルグルと回りながら流れ続けます。
これを「体液循環といい、体液の循環が活発に行われることで、人の体は細胞の再生を繰り返し健康な状態を保つことができるのです。
常に新しい体液を体の末端部にまで行き渡らせるには、かなりのエネルギーを使います。起きている間、脳は常に指令を発し続け、体はそれに答えてせっせと体液を循環させます。
もちろん、脳が指令を送るのは体液の循環に関わる活動だけではありません。人が生きていく上で必要なこと、そうでもないことを含めて、起きている間の脳はフル回転しています。そして、体の各部分は脳の指令で活動し続けます。
□睡眠は脳と体の休憩時間
生き物が「眠る」のは脳と体を休ませてあげるためです。
睡眠中の脳は命を維持するために最低限必要な命令以外の仕事を休みます。レム睡眠とノンレム睡眠時の脳の働きには大きな違いがありますが、全般的に考えて睡眠中は脳も休むと考えます。
脳からの指令が減るので当然、身体も休憩に入ります。
□休憩中は体液の循環も緩やかになる
休憩中は心臓を含めた内臓や、血液を生み出す骨髄、脾臓やリンパ節なども休むため、血圧が下がり脈拍も減ります。
朝は体液循環の活動が低下している時間帯です。
■血行が悪くなることで起こる悪循環のサイクル
朝の太陽を浴びて徐々に体の機能を回復させてから起き上がれば体への負担は少なくて済み、気持ちよく目覚めることができます。しかし、現代社会では休日以外、そうノンビリとした朝を迎えるわけにはいきません。血行が悪い状態でも起き上らなくてはいけないのです。
健康ならすぐに体調が回復するのですが、体のどこかに異常があったり、充分な睡眠が取れなかったときなど、血行の悪さが原因で悪循環のサイクルに陥ってしまうことがあります。
悪循環のサイクルとは、
- 血行が滞っている筋肉は硬くなっています
- 硬くなっている筋肉は血管や神経を圧迫します
- 圧迫されるとさらに血行が悪くなり、神経は痛みを感じます
- 血行の悪さが、しびれや痛みを大きくします
- 痛みやしびれは筋肉を緊張させ硬くします
- 硬くなった筋肉が血管を……
この流れが慢性的な腰痛の原因になります。
■内蔵の具合が悪くなることで起こる腰痛
腰痛は内臓が原因で起こる場合があります。
内臓が原因で起こる腰痛には「内臓疾患」によるものと「内臓疲労」によるものがあります。
□内臓疾患による腰痛
腰の前の部分にある内臓の病気が原因で起こる腰痛です。
腰の前の内臓には、胃や大腸、肝臓といった臓器が含まれています。子宮は骨盤の前後に渡って位置していますがこれも含まれます。
これらの内臓が、癌、肝炎、すい炎、胆石、十二指腸潰瘍、胃潰瘍などの病気にかかると神経反射(※)を起こして腰痛が起こることがあります。病気が進行し内臓が肥大して、骨盤を押し広げることで痛みを感じる場合もあります。
内臓疾患による腰痛は、腰痛患者の1%に満たないのですが、腰痛を引き起こすということはかなり症状が進んでいます。腰痛の原因がわからないときは内蔵疾患を疑ってみる必要があるでしょう。
※神経反射:特定の刺激によって引き起こされる反応のこと。この場合は内臓の病気によって腰の神経が刺激されること
□内臓疲労による腰痛
○内臓疲労とは
内臓疲労とは「病気予備軍の内臓」のことです。まだ病気を発症していないので、検査を行っても異常を見つけることはできません。
○内臓疲労による腰痛は姿勢の悪さが直接の原因
内臓が疲れる原因はストレスや暴飲暴食といった生活習慣の乱れです。
心身が疲れると体の中に老廃物が発生します(この老廃物が疲れの原因だともいわれています)。老廃物は内容によってそれぞれの内臓が処理に当たります。
処理しなくてはいけない老廃物が多すぎると内臓はオーバーワークで機能低下を起こします。内臓の機能が落ちると、それに対して体が反応を起こします(体性反射)。
体性反射によって内臓の疲れが外側から見てわかるようになります。
それが
・背中が丸まって首が前に出る(猫背になる)
状態です。
内臓疲労が改善されないと
・悪い姿勢のまま日常生活を送る
・体にゆがみが生じる
やがて
・腰痛が起こる
ことになります。
○内臓疲労による腰痛は睡眠不足がきっかけなることも
睡眠不足も内臓疲労を起こす大きな原因です。睡眠不足状態が続くと自律神経が乱れます。自律神経は内臓や血管などの器官をコントロールしていますから、これが乱れると内臓の機能が低下します。
内臓の機能低下が内臓疲労です。内臓疲労は腰痛の原因になります。
■自律神経と睡眠
人はものを見たり、運動をしたり、ものを考えたりすることは自由にコントロールできます。でも、体液循環や心臓の心拍などの器官の働きをコントロールすることはできません。
では、体液循環や心臓をコントロールしている器官はどこなのでしょう?
□内臓の働きは自律神経がコントロール
内臓や体液循環を行っている器官は、自分の意志で命令を出すことができる知覚神経や運動神経とは切り離された、「自律神経」からの命令で動いています。
自分の意志から切り離されているおかげで、意識しなくても心臓は動いていますし、胃腸はものを食べれば消化してくれます。放っておいても血液やリンパ液は体中を循環します。
○交感神経と副交感神経
自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があり、それぞれ相反する働きをしながら、お互いを補っています。
・交感神経
交感神経は「体の動きを活発にする神経」です。仕事中、頑張らなければいけないときなどに刺激を与えます。端的に言えば「起きているときに働く神経」です。
・副交感神経
体のスイッチを切り、休息を促す神経です。心身の回復のための「寝ているときに働く神経」です。
ふたつの神経は常にバランスをとっています。ストレス過剰などで、このバランスが崩れると、体を休めなくてはいけないときに副交感神経が働かず、不眠症などの症状が起こります。
□睡眠不足が内臓に負担をかける
不眠状態が続けば自律神経にも乱れが生じて、内臓の働きが低下する「内臓疲労」へと繋がります。
内臓疲労は腰痛を招きます。
■寝る姿勢の問題
寝ているときの姿勢は人によって様々です。子どもの時からの習慣になっている姿勢は大人になってもなかなか治りません。それは、体がその姿勢で寝ることになれてしまっているからです。たとえ悪い姿勢であっても、長い間続けていると体がその姿勢に合わせてゆがんでしまっていますから、楽な姿勢だと思い込んでしまうのです。
しかし、不自然な姿勢で眠ることを繰り返していると体のゆがみがさらにひどくなり、ゆがみによる負担は体幹部分にかかってきますから、腰痛の原因になります。
□腰痛の原因になる就寝姿勢
人が寝る姿勢は「横向き」「うつ伏せ」「あお向け」のどれかです。
○横向きに寝ることの問題点
・バランスが悪い
横向きに寝ると体が安定しません。板でいえば、平らに寝かしておくのではなく、狭い面で立ておくことになるのでとてもバランスの悪い状態です。
・姿勢が不自然
体を正面から見たとき横幅が一番広い肩を支点にして寝ていますから、首も背骨も肩を頂上にして不自然なカーブを描いていることになります。自然な立ち姿とはほど遠い悪い姿勢だといえます。
・体重が分散されない
横向きでは布団に接する面が少なくなるので、体重が分散されません。負担のかかる肩や腰は、布団に接している部分が痛くなるのと同時に血行も悪くなります。
○うつ伏せに寝ることの問題点
・呼吸が苦しくなる
四つん這い状態なら胸が布団から浮いているので、寝始めは呼吸が楽に感じます。しかし深く寝るに従って手足の力が抜けていきますから、徐々に胸が圧迫されます。顔を枕につけているとさらに苦しくなります。
・姿勢が悪い
背中を丸めていても、のばした状態でも悪い姿勢のまま寝ることに変わりありません。その姿勢が楽なこと自体が問題です。すでに体がゆがんでしまっている可能性があります。
○ベストはあお向け
一番いい姿勢はやはり「あお向け」です。
・立ち姿に近い自然な姿勢
・体重が分散される
・右左どちらにも寝返りが打ちやすい
すでに腰痛がひどくてあお向けに寝ていられない場合や、舌根沈下による睡眠時無呼吸症候群を防ぐなどの理由がないときは、あお向けで寝るのがベストです。正しい姿勢で寝ることで体のゆがみも矯正されます。
■寝具と腰痛
あお向けで寝ても使っている寝具が体に合っていなければ、やはり正しい姿勢で寝ることはできません。
□柔らかすぎる寝具
柔らかい寝具は横になったときは気持ちのいいもですが、すぐに体がズブッと沈んで布団に包み込まれるようでは柔らかすぎます。最初は気持ちよくても、やがて腰に体重が集中して、体が「くの字型」になります。そのままの状態で朝を迎えると、かなりの腰痛とともに起きることになります。
体が沈みすぎると寝返りを打つのも大変です。
□硬すぎる寝具
硬めが好きと言っても、いわゆるせんべい布団のように床の硬さを感じてしまうようなものは問題です。
長く寝ていれば、床にじか寝ているのと変わらない状態になり背骨が伸びきってしまいます。長時間、硬い布団面に接しいている部分(特に腰)のうっ血もひどくなります。
□通気性と保温性
通気性がありすぎる寝具は、夏場はともかく、気温が下がるとスースーして体を冷やす原因になります。冷えは血行を悪くします。逆に保温性がありすぎると夏場寝苦しくなって寝不足になりがちです。
□重すぎる掛け布団
寝ているときの体重は体を支えている部分にとってかなりの負担です。そこに重すぎる掛け布団を加えると体を敷き布団に押しつけているのと同じ事になります。これでは体に合った敷き布団を使っていても意味がありません。掛け布団は断熱性が高く軽いものを選びましょう。
■まとめ
朝、腰痛が起きやすいのは血行が悪い状態のまま活動を始めるからです。
朝に限らず腰痛が続くのは「内臓疾患」か「内臓疲労」が原因かもしれません。
朝、腰痛が残っているのは就寝姿勢が悪いせいです。
血行が悪いと筋肉が硬くなり、硬くなった筋肉は血管や神経を圧迫して痛みやしびれを起こす、痛みはしびれは筋肉を硬くする。
睡眠不足は自律神経の乱れを引き起こし、自律神経の乱れは内臓疲労を招く。内臓疲労によって悪くなった姿勢が腰痛を発症させ、腰痛のおかげでよく眠ることができず睡眠不足になる。
寝ている姿勢が悪いと体にゆがみが生じて腰痛を引き起こす。痛みを回避しようとしてより不自然な姿勢で寝ることが習慣になり、さらに痛みがひどくなる。
これらの腰痛の悪循環サイクルから抜け出さない限り「腰痛のない朝」を迎えることはできません 。